中国で戸籍にあたるものとしては、住民台帳にあたる戸籍(戸口)と内申書にあたるタン案(タンは木へんに当)がある。タン案は学校や職場での成績や思想傾向、協調性などを記したもので、所属する学校や会社が保管し、進学や就職に大きな影響を与える。改善が試みられているがいまだ廃止されてない。社会の混乱などが理由でタン案を持たない北京市民を二人知っているが、彼らは永久に外国旅行ができない。タン案がなければパスポートが発給されないからだ。
タン案の中身を本人が知ることはできないが、タン案を扱う機関の関係者が友人にいると、こっそり中身を教えてもらえることもある。昨日会った在日中国人のJは90年に有名大学をトップクラスで卒業したものの就職先がなく、アルバイトをしたりしながら暮らして、95年に来日した。15年前になぜ自分が就職できなかったかは彼にとって大きな謎だったが、最近友人から自分のタン案に記載された一文を教えてもらい、すべてが判然したという。
「此人不可重用」(この人、重用すべからず) 彼は面白おかしく語り、ぼくも思わず吹き出した。悲しさを突き抜けるような馬鹿馬鹿しいユーモアすらが漂う。このように記された理由を彼は知らないが、あるいは担任教師に嫌われただけかもしれない。そんないい加減な理由であっても、この一文がある限り、いくらがんばっても努力に見合う成果を得ることは難しい。
文字通りの「烙印」で、古典を読む限り中国らしいといえば中国らしい。もしぼくがそう書かれたとしたらどんな人生をたどるのか・・・・結果として今ぼくが会社に属していないことと、烙印を押されることは別の話に違いあるまい。