三十代後半の女性、彼女は美貌でバツイチのキャリアウーマンだが、その人をかりにSさんと呼んでおこう。Sさんが今、十七歳年下の中国人男性・Gさんにうつつを抜かしている。Gさんは山西省出身、背が高くイケメン顔で、はにかみながらたどたどしく話す日本語はかわいらしくもある。Sさんは財力を生かしてGさんを独占し、ほぼ毎日、都内の高級レストランで長い夜を過ごしている。そのうちSさんが住む湾岸の高級マンションで同棲も始めた。
カネをつぎこんで外国の美男子を囲おうとする女性の話を耳にすることがあるが、そのことの倫理などはぼくにとってどうでもいい。かつてぼくも似たようなことをしたことがあるし、程度の差こそあれ心当たりのある男性諸氏も少なくなかろう。男性だろうが女性だろうがカネで異性を買う行為は最低だとの考えもありうるが、ともかく同じことを女性がやっておかしいはずがない。
しかし、Sさんがのぼせ上がるほどGさんはSさんを好きでない。と言うか、最近はうんざりもしてきている。ある時Sさんは「わたし、だまされてるのかしら」と口にしたことがあったが、最初からカネで成り立った関係である以上、相手からするとだますもだまさないもない。第三者からすれば自明なのだけど、当人にはなかなかわからない。付き合っていくうちにだんだんと心を開き、自分を深く愛してくれるだろうと期待する。高級品をプレゼントしてそれを彼があまり喜ばないと怒りがこみ上げ、彼を説教してやらねばならないと考える。この心情はSさんにとって恋することと同義のはずだ。こうして深みに入るが、それはあくまでSさんが、であり、Gさんはそのうち離れていくのだろう。