日ごろ上野で活動することの多いぼくは稀に歩くことを除けば上野発の終バスで帰宅する。起点の上野と終点の下町JR駅を結び、途中、下町を通りつつ近所のバス停まで行くこのバスは日中でも座れないことはなく、11時近くの終バスともなるとがら空きである。ぼくを除き5人程度が乗っているが、うち4人はいつも同じ人で、しかも同じ位置に腰かける。終バスならではの光景だろう。
ところで、毎日乗り合わす4人のうち3人は初老の男女であるが、1人だけ妙齢の女性がいる。鷲尾いさ子をクールにした感じの、相当クールな顔立ちで、スタイルも顔も均整がとれていて美人と言えるが常に無表情で感情がのぞけない無機質な感が漂う。上野で働いているのだろうが、普通の会社員ではないだろうし、ここらへんに多い水商売の女性にも見えない。
着ている服装はきわめて地味かつ合理的で、たとえば就職活動中の女子大生の着てそうなスーツだったり、あるいはTシャツに安物の黒のトランクスだったりするから、デート帰りにも見えない。四つ先のバス停でいつも降りるのだが、その間、ずっと携帯電話をにらめっこしている。恋人とメールでもしているのかと思い、何気なくのぞいたら、ゲームをやっていた。
終バスの客は顔なじみでたいていの人には挨拶や天候話をするが、彼女だけは誰とも声をかけたことがない。下車の際に目が合ったら笑みでも投げかけようとしばし準備するが、今のところ機会がない。その謎めいた雰囲気がおもしろくて、このバスに乗るのは少したのしみである。