ぼくにとって帰省とは故郷に帰るよりも故郷を作っていることにあたるかもしれない。ある人からそう指摘されたことがあるがまさしくその通りだと思った。
九州(北九州・大分)はぼくの故郷ではあるが、暮らしたのが小学低学年までだったこともあって、両親・親戚を除くと人間関係はあまりない。そのため帰って一杯やれる友人も今のところなく、そういう人がいるのはむしろ学校時代を過ごした神奈川や、東北・東京・関西・海外であって、帰ることに伴うさまざまなくつろぎや刺激のうちの一部しかぼくの帰省にはない。ただあるのはぼくにとって九州が故郷であるという戸籍的事実と、両親と、祖父たちの思い出だけで、その他についてはよその地方から大分の大学に入学したばかりの学生とぼくはなんら違いない。
ただ自分が九州人であるという意識は強く、その意識を持って故郷の中で活動できる自分を作り上げたい気持ちは強い。そういう気持ちで、70年代までの追憶をもとに人工的に故郷を作り上げたいと思う。ここでいろんな人と知り合い、飲んだり騒いだり、何かを築き上げていきたい気持ちがもしかしたら正真正銘の九州人に負けず劣らずあるのではないかと思う。
そんなわけでまずは一人で歩き始める。今日は夕方から明礬温泉の別府温泉保養ランドに出かける。ここは常に行くところだが、オーストラリア人のマットという青年と知り合い、店に誘う。店では会社員や新聞社の男性とも知り合う。ほかにも出会いはあり、何もないところに何かをこしらえていくことの胸ときめく気がする。