スポーツ選手の家系なのにぼくだけが全く素質なく、早々と野球とラグビーに挫折した。一方で小学時代には自分の歌や自分が主人公の漫画がクラスで流行るほどの人気者だったのに、思春期の訪れとともに誰もぼくのジョークを笑わなくなった。自分の拠るべき所がなかった。
そのうち読書をするようになった。時期をはっきりおぼえている最初の読書体験は中二・九月、井上靖の『夏草冬濤』だった。体育祭をさぼって、誰にも見つからぬよう近所のマンションの屋上や階段を転々としながら一日で読み終えた。バンカラ風の不良学生が出てくるシーンがあって、彼らを真似したくなり、ゲームセンターに通うようになった。それからは勉強と読書と友人宅で異性の話をすることを除けば、ゲームセンターに入り浸った。ギャラクシアン、ムーンクレスタ、ニューラリーエックスなどは常に高得点ランキングのトップを維持するほどに上達したが、そのことは誰にも褒められることもないし、自分でも喜んでいいのかわからなかった。ただゲームをやっている時はそんなことを考える必要もなく、ひたすら高得点をはじき出した。