今夜は赤坂プリンスホテルの寿司屋「橘」で、世話になっている木村先生と会食する。先生とは大学時代に半年に一度の割合でご馳走になり、また、昨年あたりから一年に一度、ご馳走になっている。木村先生の専攻はヨーロッパ、いろいろな要職についている方で、そんな高名な方が多忙な時間を割いてまでなぜ専攻も知名度もまるで違うぼくのために時間を割いてくれるのか、それが昔も今もよくわからない。もちろん利害関係などは何一つ存在せず、また会っている時の会話も「どこそこのどの食べ物がうまい」とか、そこらへんの話に終始する。だから、ぼくとしてはそれが必然的でなく何気ないものだけにかえって不安に駆られる時もある。
ただ、確実に言えることは、先生に向かい合っていると妙な発奮と自信めいたものが沸いてくることで、学生の頃、空論をほざくぼくを前に先生がどのように感じていたのか、そんなことに思いを寄せる余裕すらもないのだが、そこまで考える必要はなかろうと、なかば開き直って思うままを話すことにしている。考えてもみれば、ぼくは専攻も業種もまるで違う人としばしば会っていてそれはたいてい愉しいのだし、ぼくが主に中国のことを書いているのもけっして自分から領域の線引きをしているわけではなく、それははるか目上の人にとっても同じことなのではないかと。
残念ながら今のぼくには先生への恩に報いるだけの力はない。けれどもご厚意を受けとめて、自分もつとめて若い人と会おうといつも心に誓っている。