ドキュメンタリー映画
『巴逹維亜』(井内雅倫+伊藤王樹/ビデオ/35分/2005)をみる機会があった。インドネシアで数年前に起きた華人襲撃事件をテーマに、インドネシアの華人たちに体当たり取材をしていく映画で、被害に遭った人に単刀直入に被害を、加害者たちに単刀直入に加害感情を尋ねたりする率直な取材がおもしろかった。物を知ると、あれこれと背景を探ったり複雑な言葉しか出てこなくなるのを、若い監督たちはあえてそれを避けるようにズバズバ斬りこんでいく。そして、被取材者の方も実にあっけらかんとそれに答えている。こうしたことは実に多いように思われ、たとえば日本や中国では中国で日本軍の被害に遭った老人が何を考え、何を感じているのかの情報がほとんど皆無に等しく、他方で間接的な情報ばかりが氾濫していると言えるであろう。物を知ることが原点を忘れることになってはいけないことを語りかけてくる映画作品だった。
若い監督たちがこれからもかかる原点を守り続けていくことにはきっと困難もあるのだろうが、ぜひとも原点を見失わないでほしいと願う。ストレートしか来ない時にはストレートが打てても、変化球を見せられると同じストレートが打てなくなったりもする。取材をする際に大切だと思うのは学生の頃に抱いたような原点的な疑問にいかに正直であれるかということだと思われ、同時にそのことがけっして容易でないことを思わされたりもする。