憂鬱な状態というのがどのようにしたらなるのか、ぼくにはよくわからないが、北京に行く際の交通手段を考えることはきわめてそれに近い状態にぼくを陥れる。
人間が無力感を感じるのは、あるどうしようもない事態が目の前にあって、それに釣り合わぬ自分を無理に合わせなくてはならない時なのかもしれない。ある場所に行くために決められた飛行機に乗らなければならないことなどはぼくにとってまさにそう。
本当に自由に旅するためには自家用ジェットか自家用クルーズ船を保有しなくてはならないのかもしれない。交通手段を考えるだけでぼくは自分の無力を痛感する。
一昔前、香港などに立ち寄ってさまざまな方面の格安航空券を考慮することは旅そのものと同じくらい愉しいことだった。それはきっと、ロイヤルネパール航空だとかTGだとかエアインディアだとかの響きがぼくをトリップさせるものだったからなのだろう、。すなわち、現実からの逃げ道としての麻薬のように。ところが今では、それは、積み重ねようとしている日常の中で現実に向き合うことを強いる装置でしかない。
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北京に行くとする。まず最初にいくつかのルートを想定する。
1、日本航空か全日空の東京発の直行便
2、ノースウェストの東京発の直行便
3、中国国際航空・中国南方航空・中国東方航空の東京発の直行便
4、イラン航空・パキスタン航空の東京発の直行便
5、中部・関空・福岡発の中国国際航空の直行便
6、大韓航空かアシアナ航空でソウル経由で入る
7、神戸~天津のフェリーで天津から入る。
8、下関~青島のフェリーで青島から入る。
9、大阪~上海のフェリーで上海から入る。
10.キャセイか上海航空で香港もしくは上海から入る。
11、九州~(フェリー)~釜山~(鉄道)~仁川~(フェリー)~天津
12、伏木もしくは小倉~(フェリーもしくは飛行機)~ウラジオストック~(列車)~ハルビンと入る。
以上のうち、実際にやってことがあるのは1、3,4、5、7,8,9、10。ルートは少なくないが、どれも魅力的とは言い難い。
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1はとにかく高い。会社員時代にはもっぱらこれを使ったが、会社がカネを出してくれる人が中心に乗っている路線に違いない。格安で15万円などというところには、この路線が企業社会だけを想定しているのではないかとの憤りすら感じてしまう。全日空などはまれに8万を切ることもあり、そういう時には利用したくなる。日航はひところの事故多発も頭をよぎる。
2は論外。ライターを持ち込めない飛行機など乗るはずもない。価格は安めで機材も330を使用、一部の人に人気のある路線だが、北京到着が遅く、友人宅で過ごすことの多いぼくには不便きわまりない。
3は年々高くなっている印象があり、そのわりに座席や座席間距離が狭く(特に東方の直行便と国際の421・422は狭い)、777でも個人用モニターがない(機内が禁煙となって以降、ぼくは飛行中ずっとモニターで経路図を見る癖があり、それがないと落ち着かなくなる)など、快適に過ごすことは難しい。ぼくは体型上、狭い席に座ることが苦痛なので最近ではめったに乗らなくなった。機材は比較的新しく、また、操縦がうまいとの声もきくが、中国は今パイロットが絶対的に不足しているとも言われており、安全性の面でも高度経済成長が続く今後はなんとも言えない。
4はわりと気に入っている路線で価格は最も安い。ぼくが乗る時は必ずと言っていいほど大幅に遅れ(5時間程度)、また、イラン航空の機材の古さ(クラシックジャンボ)やパキスタン航空で最近2年間に4回乗ったうち3回エンジン故障(離陸前)したことが頭をよぎることもあって、敬遠したい気持ちも沸くが、節約したい時はこれに乗る。どちらも座席は中国系よりは過ごしやすい。
5は成田発に比べて安い(国内運賃を入れても)こと、乗っている時間が短い(1秒でも短い方がよい)ことがメリットで、特に福岡発は帰省も兼ねることができる。ただし、それなりの時間的ゆとりが必要で、最近は常に真っ先に計画するものの実現できていない。
6は乗ったことがないのでよくわからないが、値段と機材とサービスの折り合いを考えるならば1~5よりもマトモだと言えるかもしれない(特に中国線・日本線とも路線が多く777、330導入が多いアシアナ)。
7~9は飛行機嫌いのぼくが常に想定するコースだが、東京~北京だとたいして安くならないことはどうでもいいとしても、時間の問題がある。これは時間がかかるということよりもむしろ日本出発日が週の後半に偏っていることが大きく、常にスケジュールが合わない。
10は東京~香港・上海が東京~北京よりもはるかに安いことを利用するものだが、北京までを考えると、多客期には上海や香港で数日間チケットが購入できずに待たされることがある。そうなると安くもないし遠回りになる。
11は学生時代なら必ずやったであろう方法だが、今のところまだやっていない。
12は今の段階ではとても時間がない。
ヨーロッパ間の移動に比べるとさっぱり魅力がないに違いない。こういうことを考えると、グローバル化だとか東アジア共同体だとかが空々しく思えてくるのだ。ただし、韓国経由が充実しつつあることで、少しずつバリエーションが豊かになっていることは指摘しておこう。
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おことわり・・・以上の見解は飛行機が大嫌いなぼくの嗜好が反映されております。ぼくが乗り物を考える場合の優先順位は、近年の事故の有無>機材の新しさと大きさとメーカー>国の状態(東アジアの高度経済成長エリアであるかどうかなど)>所要時間>座席の広さ>値段>サービス>個人用モニターの有無、といった感じになります。人により優先順位はさまざまでしょうから以上書いたことはあくまでぼくの偏見であると言っておきます。
たとえば8万円で777や737-8(9)00や33(4)0を使い、シートピッチが90センチの路線と、4万円でMD10やツポレフや757を使い、シートピッチが80センチの路線があればためらわず前者を選びます。というのも飛行機に乗ることがいったん嫌になると乗る数日前から浪費したくなってしまい、結局酒代がその差額以上になってしまうことを経験してきたからです。
とはいえ、ぼくは中国国内線に多いツポレフだとか小型機にもたくさん乗ったことがあります。ただしそういうのに乗ることはけっして好きではありません。